技術情報

第52回地盤工学研究発表会(名古屋) 2017年7月 場所打ち杭掘削時における支持層判定装置の開発

正会員 樫本 裕輔
株式会社 オーク
非会員 樫本 孝彦
株式会社 オーク
  1. はじめに

    場所打ち杭工法の支持層確認は、直接掘削した土砂を採取したのちに、事前に行った地盤調査のサンプル試料と目視で比較して判定する。掘削土砂は乱されているものの、土質を判定するには問題ないので、支持層とそれ以外の層の土質が異なる場合などでは、確実かつ有効な支持層の確認方法であると思われる。しかし、支持層と支持層上部が同一地層で、N値が斬増するような地層では、目視による土質判定では支持層の確認は困難である。このような地盤に対処すべく、場所打ち杭工法掘削機の回転トルクに着目した支持層確認方法が提案されているが、管理手法として解決すべき課題が残されているのが現状である1)

    支持層を決定する上で、事前に行われる地盤調査から得られるN値は重要な指標として考えられている。著者らは場所打ち杭掘削時に、標準貫入試験と同じ原理で、N値に類似した指標(以下Nr値)を得ることのできる支持層判定装置を開発した。ここでは、実際の施工現場でN値とNr値の比較試験から得られた本技術の有効性について考察する。

  2. 支持層判定装置の概要

    支持層判定装置(以下 試験装置)の外観を写真1に示す。高さ5.5m、直径φ0.35mの鋼製ケーシングに、63.5kgの錘を76cmの高さから自由落下させ先端ロッドを打撃する機構を内蔵している。打撃方式は、図1に示すように油圧シリンダーを利用した自動落下方式であるので、標準貫入試験におけるコーンプーリー方式やトンビ方式よりも均一な打撃エネルギーで先端ロッドを貫入することができる。これらの打撃機構は、アキュムレーター及び止水パッキンで完全防水されているので、水中での試験も可能である。

    写真1 試験装置外観
    図1 自動落下機構

    先端ロッドの貫入量とそれに要した打撃回数は、地上部でモニタリングし記録することができる。1打撃に要する時間は約6秒である。つまり、打撃回数50回の設定であれば、約5分といった短い時間で支持層を確認することができる。

    オールケーシング工法では、掘削径に応じたズレ止め用ガイドを鋼製ケーシングに装着してから、クレーンで試験装置を掘削底に設置する(写真2)。アースドリル工法では、装置上端部をケリージョイント仕様にしてから、アースドリル機に装着して、掘削底に設置する。装置の総重量は約1,100kgであり、調査深度は50mの実績がある。

    写真2 装置設置状況

    先端ロッドには、サンプラーロッドを装着することができる。従って、試料採取による土質判定も同時に行うことができる。

  3. 比較試験概要

    地盤条件および調査断面図を図2に示す。試験地盤は、盛土層が地表面から2.8m程度の層厚で分布して、その下位には、約16mの層厚で、軟弱な沖積粘土層と中位の締まり程度の沖積礫質土層が互層で堆積する。GL-19m付近からφ5~30mmの亜円礫~亜角礫が主体の洪積礫層となる。場所打ち杭はφ1.2mのオールケーシング工法で設計されており、洪積礫層を支持地盤としている(掘削底はGL-20.2m)。地盤データは、試験杭芯から北に水平距離で約3.0m移動した地点のものであり、これによれば掘削底のN値は35~43の間にあると推測される。

    図2 地盤条件および調査断面図

    比較試験は以下の順序で行った。まず、オールケーシング工法にて注水を行いながら所定深度まで掘削を行った。そのあと、スライム処理の前に試験装置をクレーンで吊り上げ、掘削底に静かにセットした。ここでは、標準貫入試験の手順と同じく、予備打ち(貫入量150mm)を行ったのちに、本打ち(貫入量300mm、打撃回数50)を行った。先端ロッドにはサンプラーロッドを取り付けて、先端地盤の試料採取を試みた。計測データとして、予備打ちも含めて、1打撃毎の貫入量を記録した。こうして得られたNr値をN値と比較した。加えてサンプラーロッドによる土質採取の結果も考慮にいれて、本試験装置の有効性について考察した。

  4. 結果と考察

    図3に打撃回数と累積貫入量の関係を示す。累積貫入量が228mm(打撃回数31)までは勾配がほぼ一定で推移している。予備打ちは18回の打撃回数で完了した。本打ちは、12回の打撃で78mm貫入し、それ以降は50回の打撃完了まで貫入量は零であった。このように貫入不能となった原因として、巨礫、転石等の地中障害、あるいは硬質地盤の存在が想定される。

    図3 打撃回数と累積貫入量の関係

    予備打ちの目的は、スライムや掘削で生じた地盤の乱れが本打ちに影響を及ぼさないようにすることである。特にN 値≧50の密実な地盤では、貫入困難となることが想定されるので、このような場合は試験開始深さから直接本打ちを行うことが許容されている。また、自動落下装置を用いる場合は、貫入高さが76cm±1cmの高さから予備打ちを行ってもよく、この段階で打撃回数が50回に達した場合は、累計貫入量を測定し試験を終了することと定められている2)。試験地盤は密実な礫層であることが想定され、本試験装置は自動落下機構を有していることから、予備打ち区間のデータも含め、Nr値を算出することとした。表1に示すように予備打ち、本打ちならびに図3で勾配が一定の区間(打撃回数31、累積貫入量228mm)について、それぞれ300mm貫入すると想定した換算Nr値を算出した。予備打ちの換算Nr値は36、本打ちの換算Nr値は192、一定勾配区間の換算Nr値は42であった。既往の地盤データからN値は35~43付近だと推定されているので、予備打ち時、および一定勾配区間時の換算Nr値は、N値と同等の評価ができる可能性が示唆された。

    表1 換算Nr値の算出
      貫入量(mm) 打撃回数 n(回) 換算Nr値
    設定 実測 設定 実測
    予備打ち 150 150 50 18 36
    本打ち 300 78 50 50 192
    勾配一定区間 - 229 - 31 41

    写真3に、サンプラーロッドで採取した土質試料を示す。最大でφ30mm程度の礫が混入しており、設計支持層と同様の土質であることが確認された。礫以外にオールケーシング工法で発生したスライム残渣と推定される試料が混入した。今回はスライム処理前に試験を行っているが、スライム処理後に行えば、スライム処理の品質確認も兼ねることができる可能性が示唆された。

    写真3 サンプリング結果
  5. まとめ

    場所打ち杭掘削時における支持層判定装置を開発した。試験装置から得られるNr値は既知のN値と同等の評価ができる可能性があることが確認された。サンプラーロッドを装着することで、先端土質の判定のほか、場所打ち杭工法で発生するスライム残渣も確認できることが明らかとなった。

    参考文献
    1. 宮本和徹, 場所打ちコンクリート杭の施工における支持層確認と施工による影響, 基礎工, Vol.42, No.6, pp.33-36, 2014.6.
    2. 地盤工学会, 地盤調査の方法と解説, p.254, 2004.